2012年6月2日土曜日

<冠詞に関する覚え書(38)>



= 覚え書(38) =

 今回は固有名詞を扱います。固有名詞と冠詞の用法は複雑であり、簡単な法則で全てを説明することは不可能です。また、通念の定冠詞にも言えることですが、ネイティブスピーカーにとって、固有名詞に冠詞が含まれるか否かの問題は理屈ではなく、生まれたときから耳にしてきた音をそのまま模倣しているに過ぎませんから、英語学を専門としないネイティブスピーカーに何らかの理論的な根拠や説明を求めても、徒労に終わることがほとんどでしょう。従って、ここでもごく一般的な傾向を述べることで満足せざるを得ないと思います。

原則として無冠詞で使う固有名詞

 まず、固有名詞は原則無冠詞で用いられるということは、当たり前のように言われることですが、具体的にいろいろな固有名詞を考えてみると、それほど単純ではないことが分かります。しかし、「固有名詞は無冠詞」というイメージが強いのは、日常的によく意識に上る固有名詞が無冠詞であることが多いからです(むしろ、正確には、日常的によく意識に上るような固有名詞だからこそ、簡潔に無冠詞で使うのです)。これらの固有名詞の主なものは、人名と(ある種の)地名です。定冠詞は、話し手と聞き手の間で「どの…」であるかが分かっている(とみなした)という印として使われる語ですから、固有名詞の場合もその語感に基づいて定冠詞と用いられていると分かりやすいのですが、一方で、掲称として無冠詞を使うと� ��う語感があるために、その2つの語感がぶつかり合って多少の混乱が生じていると考えられます。人名と地名は、挙示され、掲示される代表的な言葉ですから、ある種のものは無冠詞で用いられるのが普通の現象となります。原則無冠詞で用いられる代表的なものには次のようなものがあります。

【原則無冠詞】 人名 国名 大陸名 州名 県名 市町村名 など

身近な人名や地名は、頻繁に意識に上り、日常的なコミュニケーションの中で口にされる可能性が高く、わざわざ「あの」、「その」を表す定冠詞を使わなくても特定し、同定できるはずです。また、人名は呼びかけなど掲称性の高い局面で用いられることが多いことも影響していると考えられます。国名や都市名なども見出しのように挙示される場面で使われることが多いことも影響しているでしょう。人名やある種の地名が無冠詞で使われ始めると、なじみのない人名や同種の地名も同じように無冠詞で使われるようになっても不思議ではありません。このような事情から、人名や国名、市町村名など上述の地名は無冠詞が習慣となっていると思われます。これらの例をほんの少しだけ挙げておきます。

Palmer(パーマー) Japan(日本) Holland(オランダ) France(フランス) Eurasia(ユーラシア) America(北アメリカ;南アメリカ;アメリカ大陸全体) North America(北アメリカ) Mississippi(ミシシッピ州) Colorado(コロラド州) Washington(ワシントン州;ワシントン市) 's-Gravenhage(スフラーフェンハーヘ;「ハーグ」の正式名称) Hyogo (Prefecture)(兵庫県) Kyoto Prefecture(京都府) Kyoto(京都府;京都市) Kyoto City(京都市) Nagoya City(名古屋市) Shibuya Ward(渋谷区) Minato Ward(港区) Shibuya Ward, Tokyo(東京都渋谷区)

しかし、同様の固有名詞にも次のような表現があります。

the Palmers(パーマー夫妻;パーマー一家) the Netherlands(オランダ) the French Republic(フランス共和国) the Eurasian Continent(ユーラシア大陸) the Americas(南北アメリカ) the Washington State(ワシントン州) The Hague(ハーグ;この名前は「スフラーフェンハーヘ」の通称で、元々「例のあの(伯爵の)領地(生垣)」を表していたらしい) the Tokyo Metropolis(東京都) the city of Kyoto(京都市) the Shibuya Ward of Tokyo(東京の渋谷区)

また、通例無冠詞で用いられるものに天体があります。これらの多くは、ローマ神話の神の名前に由来しますから、神の名が無冠詞であるのと同じように無冠詞です。

Mercury(水星) Mars(火星) Neptune(海王星) Vega(ベガ) Halley's Comet(ハレー彗星) Comet Hyakutake(百武彗星) Ursa Major(大熊座) Cygnus(白鳥座)

天体にも次のように定冠詞を伴うものがあります。

the Andromeda Galaxy(アンドロメダ銀河) the Milky Way(天の川) the Great Bear(大熊座) (the) Northern Cross(白鳥座) (the) Earth (or (the) earth)(地球) the moon (or the Moon)(月)

「地球」に関しては語感の揺れが見られる典型的な語ですが、Mercury や Mars と同列の天体として考えるときは Earth が用いられ、the sun や the moon と同列の遍在通念(「第17話」を参照)として考えるときは the earth が用いられます。その中間が the Earth です。無冠詞の earth は一般的に熟語で使われます(例えば、on earth = いったい。「第35話」を参照)。

固有名詞の一般的特徴

 これら以外にも、固有名詞と冠詞の複雑な関係がたくさんありますが、これらをできるだけ整理して、見通しを良くするのが今回の目標です。まず、固有名詞と冠詞の関係について、表現形式、イメージ、文体の点から、一般的にどのようなことが言えるのか、まとめておきます。

T 定冠詞を伴いやすい固有名詞
◎ 表現形式
[1]the 複数:(例)the United States the Alps
[2]the A of B (まれに the A for B, the A in B など):(例)the Gulf of Mexico the University of Tokyo
◎ イメージ
[1]境界線があいまいで統一体としてイメージしにくく、全体像が分かりにくい:(例)海洋 河川 半島 砂漠 など
[2]有名なものや話題になりやすい(なりやすかった)(単なる名称というよりも、実体としてどのようなものかを意識しやすい(しやすかった))ために、「例の、あの」という意識が働きやすい(働きやすかった):(例)船舶 列車 橋 トンネル 建造物 など
[3]基礎となる名詞が本来可算名詞であるので、無冠詞で使いにくい:(例)the White House The Economist など
◎ 文体
[1]穏やかで悠長
[2]正式で堅苦しい

U TとVの中間的な固有名詞
◎ 表現形式
[1](the) 形容詞 (or 固有名詞の形容詞用法)+普通名詞:(例)the English Channel the Ritz Hotel
[2](the) 普通名詞+固有名詞(付置規定):(例)the River Thames (the) Hotel Ritz 

V 無冠詞になりやすい固有名詞
◎ 表現形式
[1]1単語の固有名詞:(例)Japan Jupiter
[2]「形容詞 (or 固有名詞の形容詞用法)+固有名詞」全体が一体となっている固有名詞:(例)New York Old Japan 
◎ イメージ
[1]境界線が明確で統一感がある
[2]頻繁に使われており、非常に身近に感じられているか、逆に、ほとんど知識がなく、よく分からない「音」に近い(実体としてどのようなものか、というよりも単なる名称として感じられる傾向にあるもの)
[3]基礎となる名詞が本来不可算名詞であり、無冠詞でも違和感がない
◎ 文体
[1]簡潔で鋭い
[2]事務調、無味乾燥、ぶっきらぼう、卑近

W 不定冠詞・複数形が用いられる固有名詞
◎ イメージ
[1]同種のものが複数存在することが意識されやすい:(例)製品 作品 チェーン店 など
[2]「どの…、どれ」というよりも「どんな…、どのような…」という意識が働きやすい:(例)a stagnating Japan

以上の点を踏まえて、固有名詞と冠詞を見て行きましょう。まず、定冠詞と共に用いられることが多いものからです。

定冠詞を伴いやすい表現形式[1]

[1]the 複数:(例)the United States the Alps

複数名詞を基礎にした固有名詞が"the 複数名詞"という形で用いられるのは、「境界線があいまい」な場合に定冠詞が用いられることと根本的に関連があります。いずれの場合も the を付けることによって統一性を持たせようとしているのです。例えば、"books"は漠然と複数の「本」を意味していますが、"the books"とすると、「それらの本」であり、何らかの意味でまとまりを持った集合体を指すことになります。つまり、複数あるということは、本来、ばらばらであるわけですが、それらを1つにまとめる手っ取り早い方法として、定冠詞がそこにあるということです。複数形の名詞を使って、固有名詞として1つの特定のものを述べようとする場合も同様であり、統一感を持たせるために定冠詞を使いたくなるわけです。この"the 複数名詞"は、「第22話」の後半で述べた、人々の集団を表す"the+名詞"やその他の"the+複数名詞"などの場合も基本的に同様です。固有名詞の例を少しだけ挙げておきます。

the Alps(アルプス山脈) the West Indies(西インド諸島) the Netherlands(オランダ) the United States (of America)(アメリカ合衆国) the Philippines(フィリピン)

なお、これら複数形の固有名詞は、原則として単数扱いされるもの(例えば国名)や複数扱いされるもの(例えば山脈や群島)があり、統一体としてのイメージの強さに違いがあることが分かります(ここでは、冠詞の用法と直接関係ありませんから、詳述しません)。

定冠詞を伴いやすい表現形式[2]


アメリカナイアガラの滝のトリスタン

[2]the A of B (まれに the A for B, the A in B など):(例)the Gulf of Mexico the University of Tokyo

"of 〜"によって修飾されることで、定冠詞が付きやすくなることは既に述べてきました(「第7話」〜「第9話」)。"the A of B"という形で固有名詞となる典型的な場合は、"B"が「地名」の場合です。この"of B"は、通例、「所属・所有」を表し、「A が B に属している」、「B が A を有している」という関係を示しています。"B"に地名が多く用いられるのは、「B という地域に A が所属している」、「B という場所に A が存在する」ということを述べる機会が多いからです。例えば、次のような役職・身分名は固有名詞とは言えませんが、この形式と同類に入れることができます。この場合の of は所属・所有を表す of です。

the President of the United States of America(アメリカ合衆国大統領) the Queen of England(英国女王) the Emperor of Japan(日本国天皇) the Prince of Wales(プリンス・オブ・ウェールズ)

 国名は、通例、無冠詞ですが、republic や state などの語を伴って定冠詞と使われる国名があります。

【the Republic (or State etc.) of …】 the Republic of Kazakhstan(カザフスタン共和国) the Republic of Sudan(スーダン共和国) the Islamic Republic of Iran(イラン・イスラム共和国) the Republic of Ireland(アイルランド共和国) the People's Republic of China(中華人民共和国) the State of Qatar(カタール国) the State of Kuwait(クウェート国) the State of Bahrain(バーレーン国) the Kingdom of Saudi Arabia(サウジアラビア王国) the Kingdom of Thailand(タイ王国) the Kingdom of Sweden(スウェーデン王国) the Principality of Monaco(モナコ公国) the Grand Duchy of Luxembourg(ルクセンブルク大公国)
【the … Republic (or State etc.)】 the Swiss Confederation(スイス連邦)(= Switzerland) the French Republic(フランス共和国) the Yemen Arab Republic(イエメン・アラブ共和国) the Lao People's Democratic Republic(ラオス人民民主共和国) the United Arab Emirates(アラブ首長国連邦) (the) Vatican City State(バチカン市国)(= the State of (the) Vatican City, Vatican City)

"A of B"の場合は定冠詞を用いるのが普通ですが、"B A"の形でも the を伴うのが普通です。これは、republic, state, kingdom などを用いた表現が、通例、正式名称であるために、定冠詞の持つ悠長さと堅苦しさとに合致しており、上記のような正式の国名表記では定冠詞を伴った方がいかにもふさわしいという感じがします。それとは対照的な Switzerland や France といった表現は簡潔ですから、無冠詞として挙示され、それが習慣化して無冠詞で用いられています。「バチカン市国」は、ネイティブスピーカーの語感も多少混乱気味ですが、より正式な表現である方が定冠詞を伴う傾向が強くなります。正式な感触の強いものから並べると、the State of the City of Vatican − the State of the Vatican City − the State of Vatican City − the Vatican City State − the Vatican City − Vatican City ということになります。もちろん、掲称性が高まると、of を使った場合にも the が落ちることがあります。1例だけ挙げておきます。

(1)Vatican City, officially State of the Vatican City, is a landlocked sovereign city-state whose territory consists of a walled enclave within the city of Rome.(バチカン市国、公式名 State of the Vatican City は、領土がローマ市内の城壁に囲まれた飛び領地からなる内陸の主権都市国家である)

 上記の国名に含まれる of は、「所属・所有」なのか、いわゆる「同格」なのか不分明になってきますが、国名とある程度似たようなことが指摘できる名称に「湾」の名前があります(言葉について考える場合、不分明なものを無理にどちらか一方に分類しようとするのは間違いであり、不分明なものは不分明のままでかまいません。「紫」を「青」なのか「赤」なのか、どちらか一方に分類しようとすることに似ており、あまり意味のあることだとは思いません)。「湾」を表す単語は、gulf, bight, bay などがありますが、まず、gulf と bight から見ていきます。gulf と bight は一般に bay よりも大きなものを言います。

【the Gulf (or Bight) of …】 the Gulf of Alaska(アラスカ湾) the Gulf of Mexico(メキシコ湾) the Gulf of Siam(シャム湾) the Bight of Benin(ベニン湾) the Bight of Biafra(ビアフラ湾)
【(the) … Gulf (or Bight)】 the Persian Gulf(ペルシャ湾) the Arabian Gulf(アラビア湾) the Ambracian Gulf(アンブラキア湾) the Alkyonides Gulf(アルキオニデス湾) (the) Kandalaksha Gulf(カンダラクシャ湾) (the) Khatanga Gulf(ハタンガ湾 (the) Spencer Gulf(スペンサー湾) (the) Portland Bight((ジャマイカの)ポートランド海岸) (the) Leyte Gulf(レイテ湾) (the) Bohai Gulf(渤海湾)(= Bohai Bay, the Bohai Sea) Amundsen Gulf(アムンゼン湾) Coronation Gulf(コロネーション湾)

"A of B"の形は、国名の場合と同じであり、the を伴うのが原則です。"B A"の形式の場合も定冠詞を伴うのが普通です。ただ、"B A"の形式の場合、国名に比べて無冠詞で使うものや無冠詞で使うケースが増えてきます。多くのものは、無冠詞でも定冠詞付きでも用いられており、概して、掲称性が高まれば無冠詞、「あの、例の」というニュアンスが含まれれば定冠詞付きで用いられる傾向にあると言えますが、違いは些細なものです。私が調べた限りでは、「ペルシャ湾(アラビア湾)」とギリシャ語に由来する湾は定冠詞と使われることが多いようです。確固とした理由は分かりませんが、おそらく、何らかのきっかけで、「あの、例の…」と言われ始めたものがそのまま定冠詞付きで流通したのだと思われます。ギリシャ語由来のものも、何らかの理由で1つが定冠詞付きで一般的になることで、その他のものもそれに倣ったのかもしれません。またその逆に、 1つが無冠詞なので、その他も無冠詞となったケースもあるかもしれません。例えば、「アムンゼン湾」は無冠詞で使われることが多いようですが、北極圏の湾は、またフィリピンの湾も無冠詞が比較的多いようです。語感が迷っている例を挙げておきます。どちらもロシアの湾であり、ウィキペディア(英語版)のそれぞれの項目の冒頭部分です。(2)は定冠詞を使っていますが、(3)は無冠詞です。

(2)The Kandalaksha Gulf is located in the Republic of Karelia, and Murmansk Oblast in northwestern Russia.(カンダラクシャ湾は、ロシア北西部のカレリア共和国とムルマンスク州に位置している)

(3)Khatanga Gulf is a gulf in the Laptev Sea.(ハタンガ湾はラプテフ海にある湾である)

なお、ウィキペディア(英語版)の記述が、必ずしも一般的傾向を示しているわけではありませんので注意してください。また、ウィキペディア(英語版)の記述にあるとおりに、常に定冠詞が付いたり、無冠詞になったりするわけでもありません。文脈や話者(書き手)に左右されます。この「覚え書」は、Google などで(もちろん、英語ネイティブが書いたと思われるサイトを中心に)ある程度検証して書いています。ところで、国名に比して「湾」の場合に無冠詞が多くなるのは、「国名」が正式な名称として多く使われるのに対して、「湾」は単なる地名として使われることが多いからでしょう。また、「国名」には、スイスやフランスのように無冠詞の名称と定冠詞付きの名称の両方を持つものがあり、使い分けが可能ですが、「湾」には通例そのような別称がないため、掲称的に簡潔に述べたい場合には単純に定冠詞を落とすことになるからです。
 では次に、同じ「湾」でも、bay や cove を使った表現を見ていきます。一般的に bay は gulf や bight よりも小さなものを指します。

【the Bay of …】 the Bay of Bengal(ベンガル湾) the Bay of Biscay(ビスケー湾) the Bay of Fundy(ファンディ湾) the Bay of Pigs(ピッグス湾) the Bay of Tokyo(東京湾)
【… Bay】 Hudson Bay(ハドソン湾) Corio Bay(コリオ湾) Dublin Bay(ダブリン湾) San Francisco Bay(サンフランシスコ湾) Tokyo Bay(東京湾)


テイラー滝MNレストラン

"A of B"の形で表現されるものは定冠詞を使い、"B A"の形であるものは無冠詞が原則です。とは言え、the が付されることもあるのですが、gulf や bight の場合に比べると無冠詞がずっと多いと言えます。その理由として1つ考えられるのは、上記「イメージ[1]」の「境界線があいまいで統一体としてイメージしにくい」かどうか、ということです。ただし、注意しなければならないのは、このイメージは現在のイメージというよりも、その言葉が人口に膾炙していく途上でのイメージ、つまり、昔その言葉が普及していった際のイメージの方がおそらく大きな影響を与えているはずです。gulf や bight は比較的大きな対象に使われているということは、全体的なイメージが作り難く、統一体としてイメージしにくいと考えられます。従って、それを統一体として表現しようとするとき、統一感を出すために the を使いたくなったのではないか、と考えられます。それに対して、より小さなイメージを持つ bay という言葉を使った場合は、統一体として比較的イメージしやすかったでしょうから、わざわざ the を使うという気にならなかったのではないかと思われます。その違いが、現在の用法の the の有無の相違にその痕跡が残っているように感じられます。
 また、bay よりも小さなものを指す cove や inlet についても、同様のことが言えます。つまり、"A of B"の形式は定冠詞を伴い、"B A"の形式は無冠詞が原則です。

【the Cove of …】 the Cove of Beer(ビア入り江) the Inlet of Nobuto(登戸浦)
【… Cove】 Beer Cove(ビア入り江) Lulworth Cove(ラルワースコーブ) Cook inlet(クック湾)

 以上、「湾」の話はひとまず置いて、次に、上述してきた固有名詞と同じように、"A of B"の B に地名が入ることが多い大学名について見ていきましょう。大学の名前の場合も、"A of B"の形式では定冠詞を伴うのが原則です。この"the A of B"という表現を使うものは、「その地域に属している」ということが強く意識される大学、つまり、原則として、国立大学や州立大学、あるいは市立大学ということになります。私立大学や、地名ではなく人名が冠された大学は、普通この形式では使われません。

【the A of B】 the University of London(ロンドン大学) the University of California(カリフォルニア大学) the City University of New York(ニューヨーク市立大学) the University of Tokyo(東京大学) the University of California at Los Angeles(カリフォルニア大学ロサンゼルス校) the College of William and Mary(ウイリアムアンドメアリー大学)
【B A】 Harvard University(ハーバード大学) Georgetown University(ジョージタウン大学) Nihon University(日本大学) Meiji University(明治大学) UCLA(カリフォルニア大学ロサンゼルス校) Kyoto University(京都大学;日本の国公立大学は、東京大学、筑波大学、静岡県立大学など幾つかの大学を除き、こちらの表現形式を正式名称としているものがほとんどです) Boston College(ボストンカレッジ)

Harvard はもともと牧師の名前です。Georgetown は地名ですが、私立大学なので"the A of B"の形は使いません。日本大学も、"the University of Nihon"とか"the University of Japan"という形にすると、国立大学であるかのような印象を与えます。一方、"the A of B"という形を使う大学は、この形が正式名称であるのですが、悠長で、堅苦しい感じがしますから、通称として、"London University"、"Tokyo University"という形も用いられます。また、of の後に地名以外が入る場合、例えば、工科大学などの場合も、A of B の形になるものは、定冠詞を使うのが普通です(国公立・私立を問わず)。

the Massachusetts Institute of Technology(マサチューセッツ工科大学) the Georgia Institute of Technology(ジョージア工科大学) the Massachusetts College of Art(マサチューセッツ芸術大学) the Massachusetts College of Pharmacy and Health Sciences(マサチューセッツ薬科大学) the Kyoto Institute of Technology(京都工芸繊維大学)

大学名については以上が原則です。正式名称を使う必要がある場合は、きちんと調べる必要があります。特に日本の大学は、このような本来のニュアンスとは無関係に命名されているものがかなりあるので注意する必要があります。

中間的な表現形式

[1](the) 形容詞 (or 固有名詞の形容詞用法)+普通名詞:(例)the English Channel the Ritz Hotel
[2](the) 普通名詞+固有名詞(付置規定):(例)the River Thames (the) Hotel Ritz

この形になると、定冠詞が落ちることがやや多くなってくることは、上でも述べたとおりで、"the University of London"と"London University"などの違いからも明らかでしょう。そこで問題となるのが、どのような場合に定冠詞は落ちるのか、あるいは定冠詞を伴うのか、ということです。まず1つは、上でも述べましたが、境界線のイメージがあいまいかどうか、という点です。もう1つは、名詞を修飾する形容詞(または固有名詞の形容詞的な用法)がよく用いられる語かどうかです。境界線のイメージがあいまいなもの、そして名詞を修飾する語がよく使う表現である場合は、イメージに統一性を与えるために、また、他の類似したものと区別するために(名称として特定し、同定しやすくするために)定冠詞を用いることが多くなります。つまり、「あの…だよ」、という意識が働きやすいと言えます。まず、境界線・統一性のイメージが希薄である� ��とと関連して、例えば、次のような地理に関連した固有名詞は、定冠詞を伴うことが多いといえます。

山脈 群島 海洋 海峡 大きな湾(gulf, bight) 河川 運河 半島 (大きな)海岸(線)(coast) 砂漠 森林 高原 平野 渓谷 など

 上述した"the 複数形"、"the A of B"の形も含めて、例を幾つか挙げておきます。

【山脈】 the Rocky Mountains = the Rockies(ロッキー山脈) the Himalaya Mountains = the Himalayas(ヒマラヤ山脈) the Tian Shan Mountains(天山山脈) the Andes (Mountains)(アンデス山脈) the Alps(アルプス山脈) the Cascade Range(カスケード山脈) the Alaska Range(アラスカ山脈) the Caucasus (Mountains)(コーカサス山脈)

【群島】 the Hawaiian Islands(ハワイ諸島) the Solomon Islands(ソロモン諸島) the Kuril Islands(千島列島) the Bahama Islands = the Bahamas(バハマ諸島) the Japanese Archipelago(日本列島) the Vega Archipelago(ヴェーガ群島)

これらは、主に上述の"the 複数形"の例であり、複数あるものを1つに統一しようという意思が表れた定冠詞です。range や archipelago という単数の形であっても感じ方は同じで、the を付加することによって統一感を求めていると考えられます。

【海洋】 the Pacific (Ocean)(太平洋) the Atlantic (Ocean)(大西洋) the Indian Ocean(インド洋) the Bering Sea(ベーリング海) the Dead Sea(死海) the South China Sea(南シナ海) the Mediterranean (Sea)(地中海) the Caspian (Sea)(カスピ海) the Sea of Japan(日本海)、the Sea of Okhotsk(オホーツク海)

【海流】 the Tsushima Current(対馬海流) the Kuroshio Current(黒潮) the California Current(カリフォルニア海流) the West Wind Drift(= the Antarctic Circumpolar Current)(周南極海流)

これらは、複数の概念ではありませんが、統一感のない茫漠とした広がりを持つ概念であるために、統一感が求めて定冠詞を用いることになります。これらも掲称性が高くなれば、無冠詞で使いたくなるのは、これまで述べてきたとおりです。

(4)The branch into the Sea of Japan is called Tsushima Current.(日本海の方へ流れ込む分流は対馬海流と呼ばれる)

 次に河川です。

【河川】 the Yellow River(黄河) the Colorado (River)(コロラド川) the Mississippi (River)(ミシシッピ川) the Euphrates (River)(ユーフラテス川) the Yangtze (River)(長江) the Mekong (River)(メコン川) the Hudson (River)(ハドソン川) the Seine (River)(セーヌ川)(= the (River) Seine) the (River) Thames(テムズ川) the River Otter(オッター川) the River Avon(エイボン川) the Tone River(利根川) the Yodo River(淀川)

河川の表し方が、英米で基本的に異なり、米では"the … River"、英では"the River …"で表すのが普通ですが、どちらにしろ、定冠詞を用いるのが原則です。また、river の類語に creek という語があります。creek は無冠詞で使うのが原則であり、米(オーストラリアも)では「小川」、英では inlet の類語で「入り江」を表します。inlet は上で述べたように、of を使わないこの形式の場合は無冠詞ですから、それに従って本来無冠詞であり、その形式がアメリカへ入ったと思われます。これに類して「小川」を表す kill や run も同様に無冠詞です(いずれも米語)。一方、英国では brook や burn が使われますが、これらは無冠詞でも定冠詞付きでも使われているようです。

【小さな川】 (米) Ship Creek(シップクリーク) Beaver Creek(ビーバークリーク) Rock Creek(ロッククリーク) Little Fresh Kill(リトルフレッシュキル) Bull Run(ブルラン)
(英) (the) Yeading Brook(イーディングブルック) (the) Scoonie Burn(スクーニーバーン)

 運河は原則定冠詞を付けます。


ボストンナイアガラは、駆動時間転倒

【運河】 the Suez Canal(スエズ運河) the Panama Canal(パナマ運河) the Kiel Canal(キール運河) the Caledonian Canal(カレドニア運河) the Delta-Mendota Canal(デルタメンドータ運河)

 大きな海岸線やその一帯を表す固有名詞も定冠詞を使うのが普通です。ただし、市町村など自治体名は無冠詞が原則です。また、海岸線の一部である浜辺(beach)は無冠詞が原則です。これについては後に述べます。

【海岸】 the Yorkshire Coast(ヨークシャー海岸) the Amalfi Coast(アマルフィ海岸) the Adriatic Coast(アドリア海岸) the Aegean Coast(エーゲ海岸) the West Coast(西海岸) the North Shore((ハワイの)ノースショア) the Jersey Shore(ジャージーショア) the Saxon Shore(サクソン海岸) the South Shore(カナダ、ノバスコシア州の)サウスショア地域)
【自治体】 South Shore((シカゴの)サウスショア) North Bay Shore((ニューヨーク州の都市)ノースベイショア)

 砂漠(desert)も定冠詞と使うのが原則ですが、砂丘(dunes)になると無冠詞が多くなります。一般に、英国と desert 内にある dunes は無冠詞の傾向がやや強いようです。なお、dune は「砂の小山1つ」のことであり、「砂丘」の場合、複数形になるのが普通です。

【砂漠】 the Sahara (Desert)(サハラ砂漠) the Kalahari (Desert)(カラハリ砂漠) the Gobi (Desert)(ゴビ砂漠) the Namib Desert(ナミブ砂漠) the Negev (Desert)(ネゲブ砂漠) the Libyan Sand Sea(リビア砂海)
【砂丘】 the Algodones Dunes(アルゴドネス砂丘) the Indiana Dunes(インディアナ砂丘) the Guadalupe-Nipomo Dunes(グアダルペニポモ砂丘) Bamburgh Dunes(バンバラ砂丘) Magilligan Dunes(マギリガン砂丘) Kelso Dunes(ケルソー砂丘) (the) Tottori Sand Dunes(鳥取砂丘)

 知名度が高く一般に定冠詞付きで名称が流通している幾つかの海峡は、無冠詞で用いられることはあまりありません。それ以外のものは無冠詞となることも多く、掲称的な場合には無冠詞で、「あの、例の、その」という意識が働けば定冠詞と用いられることになります。一般的に strait よりも大きなものを channel と呼びますが、channel の方が定冠詞と使われる傾向があります。

【海峡】 the English Channel(イギリス海峡) the San Pedro Channel(サンペドロ海峡) (the) Santa Barbara Channel(サンタバーバラ海峡) (the) Lemaire Channel(ラメール海峡) (the) Gastineau Channel(ガスティノー海峡) the Bering Strait(ベーリング海峡) (the) Cook Strait(クック海峡) the Strait of Dover(ドーバー海峡) the Straits of Magellan(マゼラン海峡)

例を1つ挙げておきます。

(5)Tsugaru Strait is a channel between Honshu and Hokkaido in northern Japan connecting the Sea of Japan with the Pacific Ocean. It was named after the western part of Aomori Prefecture. The Seikan Tunnel passes under it at its narrowest point (19.5km) between Tappi Misaki on the Tsugaru Peninsula in Aomori, Honshu and Shirakami Misaki on the Matsumae Peninsula in Hokkaido.
The Tsugaru Strait has eastern and western necks, both approximately 20 km across with maximum depths of 200 and 140 m respectively.(津軽海峡は、日本の北部に位置する、本州と北海道の間にある海峡であり、日本海と太平洋をつないでいる。青函トンネルがその下の最も狭い地点(19.5 km)を通っており、本州の青森県津軽半島の竜飛岬と北海道松前半島の白神岬の間を連絡している。津軽海峡には、東と西に狭くなった部分があり、いずれも幅約 20 km で、最深部はそれぞれ 200 m と 140 m である)

一般的に、定冠詞付きでも無冠詞でも用いられる固有名詞は(実は、何らかの通念の定冠詞が付く不可算名詞も)、その名詞が繰り返されたときに定冠詞を伴うことがあります。(5)の2つ目の"Tsugaru Strait"に付いた the がそれです。国名や自治体名など、原則として無冠詞で用いられる名詞は、このような使い方はしません。例えば、"Japan"という単語をまず使い、2度目に使うときに"the Japan"とすることはありません。もし the を使うなら、"the country(その国)"のように普通の名詞を使う必要があります(換称代名詞。「第5話」を参照)。しかし、そこまで無冠詞形が定着していない固有名詞は、ネイティブスピーカーの語感に揺れがあり、通常の名詞と同じように定冠詞を用いることがあります。もちろん、無冠詞を繰り返す場合もあります。その違いは、やはり掲称性を強く打ち出したいかどうかであり、明確に掲称しようとするなら、無冠詞を使うことになります。

 「湾」については、上で説明しましたが、もう1度、"the … Gulf (or Bight)"の形式の例を挙げておきます。「渤海湾」の例を見ると分かりますが、sea, gulf, bay の順に定冠詞から無冠詞への流れがあります。通例、この順に大きなものから小さなものを指します。しかし、「渤海湾」は、普通、3つのいずれの単語を使っても同じ場所を指していますから、客観的な物理的な大きさが冠詞の使用に直接影響しているのではなく、イメージが影響していることが分かります(言語を論じるときには事実論理を重視し過ぎないようにしなければなりません。言語は事実それ自体よりも人々が持つイメージに左右されます)。

【大きな湾(Gulf or Bight)】 the Persian Gulf(ペルシャ湾) the Arabian Gulf(アラビア湾) the Ambracian Gulf(アンブラキア湾) the Alkyonides Gulf(アルキオニデス湾) (the) Kandalaksha Gulf(カンダラクシャ湾) (the) Khatanga Gulf(ハタンガ湾 (the) Spencer Gulf(スペンサー湾) (the) Portland Bight((ジャマイカの)ポートランド海岸) (the) Leyte Gulf(レイテ湾) (the) Bohai Gulf(渤海湾)(= Bohai Bay, the Bohai Sea) Amundsen Gulf(アムンゼン湾) Coronation Gulf(コロネーション湾)

 「半島」、「森林」、「平原・平野・高原」、「渓谷・峡谷」なども原則として定冠詞を付けるものが多いですが、あまりなじみのないものを紹介導入するときには、無冠詞を使うこともあります。また、「森(forest)」については、英国の森に無冠詞がたくさん見られます。これは、英国の森の多くが王室林(royal forest)であったことに起因する(つまり、王室林であるために、管理場所として行政区などの地名と同じように無冠詞となった)のかもしれませんが、よく分かりません。また、一般に、forest よりも小規模な森林を指す場合に用いる wood(s) も無冠詞が普通です。さらに、「平原・平野」では、「ソールズベリー平原」が無冠詞です。これもなぜだかよく分かりませんが、有名な巨石群ストーンヘンジがある平原として、大昔から有名であることが影響しているのかも知れません(つまり、頻繁に使われるために簡潔な表現が用いられるようになった)。これらの例を挙げておきます。

【半島】 the Balkan Peninsula(バルカン半島) the Crimean Peninsula = the Crimea(クリミア半島) the Iberian Peninsula(イベリア半島) the Mornington Peninsula(モーニントン半島)  the Kii Peninsula(紀伊半島) (the) Izu Peninsula(伊豆半島) (the) Oga Peninsula(男鹿半島)

【森林】 the Caledonian Forest(カレドニア森林) the New Forest(ニューフォレスト) the National Forest(ナショナルフォレスト)the Vienna Woods(ウイーンの森) the Black Forest(シュヴァルツヴァルト) the Amazon Rainforest(アマゾン(熱帯)雨林) the Forest of Arden(アーデンの森)
◆(原則無冠詞) Sherwood Forest(シャーウッドの森) Epping Forest(エッピングの森) Whittlewood Forest(ホイットルウッドの森) Coldfall Wood (コールドフォールウッド) Bentley Wood(ベントリーウッド) Heaton Woods(ヒートンウッズ)

【平原・平野】 the Tibetan Plateau(チベット高原) the Waterberg Plateau(ウォーターバーグプラトー) the Kanto Plain(関東平野) the Canterbury Plains(カンタベリー平野) the Alaskan Wilderness(アラスカ原野) (the) Zeta Plain(ゼータ平野) the Tarim Basin(タリム盆地) the Canning Basin(カニング盆地) (the) Foxe Basin(フォックス盆地)
◆(原則無冠詞) Salisbury Plain(ソールズベリー平原)

【渓谷】 the Grand Canyon(グランドキャノン) the Tonquin Valley(トンキンバレー) the (Upper Middle) Rhein Valley(ライン渓谷) the Ironbridge Gorge(アイアンブリッジ峡谷) (the) Olduvai Gorge(オルドバイ峡谷) (the) Kurobe Gorge(黒部峡谷) (the) Colca Canyon(コルカキャニオン)
◆(原則無冠詞) Cheddar Gorge(チェダー峡谷) Death Valley(デスバレー) Glen Coe(グレンコー)(glen は「谷間」の意味)

最後の「チェダー峡谷」や「デスバレー」などは、谷の名前というよりも土地の名前に近くなっており、無冠詞で用いられるのが原則となっているようです。ちなみに、「断層」や「海溝」も定冠詞と用いられるのが普通です。統一感を求めての定冠詞であるとも考えられますが、むしろ、fault が、通例、「過ち、過失」の意味で用いられますから、ここは特殊な「断層」という意味であることを悟らせるための定冠詞という感触が強いように思います(この種の定冠詞は、「異名、通り言葉」に付く定冠詞に通じるところがあります。冒頭に挙げた"the Great Bear(大熊座)"や"the Northern Cross(白鳥座))"は、本来、異名です。「第22話」を参照)


【断層・海溝】 the Seattle Fault(シアトル断層) the Nojima Fault(野島断層) the Alpine Fault(アルペン断層) the Mariana(s) Trench(マリアナ海溝) the Japan Trench(日本海溝)

 以上のように地理上の名称は定冠詞と用いることが多いと言えます。また、the 付きで挙げた固有名詞も無冠詞で挙げた固有名詞も常にその形で用いられるとは限らず、定冠詞付きのものが無冠詞で用いられたり、無冠詞のものが定冠詞と共に用いられることもあります。

無冠詞になりやすい地理上の概念

 一方、これらと類似した概念であるにもかかわらず、通例、無冠詞で用いられるものがあります。次のようなものです。

湖 山 島 岬 小さな湾(bay) 浜辺(beach) 滝 など

 例を挙げましょう。

【湖沼】 Lake Baikal(バイカル湖) Lake Biwa(琵琶湖) Lake Michigan(ミシガン湖) Lake Ontario(オンタリオ湖) Loch Ness(ネス湖) Dyke Marsh(ダイクマーシュ) Holly Marsh(ホリーマーシュ) (the) Madrona Marsh(= the Madrona Marsh Preserve)(マドロナマーシュ自然保護地区)(沼自体は無冠詞が原則であるが、湿地帯全体を表すときは定冠詞が付きやすい)
◆(原則定冠詞) the Lake of Geneva(ジュネーブ湖) the Lake of the Woods(ウッズ湖) the Great Lakes(五大湖)

【フィヨルド】 Nassau Fjord (ナッソーフィヨルド) Russell Fiord(ラッセルフィヨルド) Hood Canal(フッドキャナル) Lynn Canal(リンキャナル)

【山】 Mt. Fuji(富士山) Mt. Everest(エベレスト山) Mr. Hiei(比叡山) Mr. Kilimanjaro(キリマンジャロ山) Mont Blanc(モンブラン)
◆(原則定冠詞) the Matterhorn(マッターホルン山) the Eiger(アイガー山) the Jungfrau(ユングフラウ山) the Mount of Olives(オリーブ山)

【丘】 (the) Flint Hills(フリントヒルズ) Alabama Hills(アラバマヒルズ) Britton Hill(ブリトンヒル) Hoosier Hill(フージアヒル) Crockern Tor(クロッカーントーア) the Berkley Hills(バークレーの丘) the Haldon Hills (= Haldon)(ハルドンヒルズ)(一般的に、複数の丘の連なりを意識するものは定冠詞、Beverly Hills(ビバリーヒルズ)のように地名や地名に近くなったものは無冠詞)

【島】 Awaji Island(淡路島) Sado Island(佐渡島) Lundy Island(ランディ島) Easter Island(イースター島) Bardsey Island(バードジー島) Isle Royale(ロイヤル島)
◆(the A of B) the Island of Arran(アラン島) the Isle of Skye(スカイ島)

【岬】 North Cape(ノース岬) Wilson (or Wilson's) Promontory(ウイルソン岬) Banzai Cliff(バンザイクリフ) Cape Cod(コッド岬) Point Barrow(バロー岬)
◆(the A of B) the Cape of Good Hope(喜望峰)

【小さな湾(Bay)】 Hudson Bay(ハドソン湾) Corio Bay(コリオ湾) Dublin Bay(ダブリン湾) San Francisco Bay(サンフランシスコ湾) Tokyo Bay(東京湾) Lulworth Cove(ラルワースコーブ) Cook inlet(クック湾)
◆(the A of B) the Bay of Bengal(ベンガル湾) the Bay of Biscay(ビスケー湾)

【浜辺】 Waikiki Beach(ワイキキビーチ) Virginia Beach(バージニアビーチ) Fistral Beach(フィストラルビーチ) South Beach(サウスビーチ)

【滝】 Nevada Fall(ネバダ滝) Vernal Fall(バーナル滝) Kegon Falls(華厳の滝) (the) Niagara Falls(ナイアガラ瀑布) (the) Victoria Falls(ビクトリア滝) (the) Willamette Falls(ウィラメット滝)

以上の例の中に"the A of B"の形が含まれていますが、それから分かるように、"the A of B"の形になるものは定冠詞を用いるのが普通です。複数形の the Great Lakes のような場合も the を使います。また、the Matterhorn を始めとする幾つかの山に定冠詞が付されていますが、これらは元々ドイツ語の山名を英語に翻訳したものだと考えられます。ドイツ語では、英語やフランス語のように"Mount …"、"Mont …"という形は普通使わず、"定冠詞 …"という形式を使います。つまり、der Matterhorn, der Eiger, die Jungfrau なのであり、そのまま逐語訳して"the Matterhorn"の形を使っているだけのようです(英語でも海や英国以外の川についてはこの形を使っています。英国の川は the River Thames のような形式であり、山 (Mount Everest など) と英国以外の川 (the Mississippi River など) との中間的な形式です)。なお、"Mount …"や"Cape …"のような形式は、前回(「第37話」)の最後でも少し述べましたが、"Hotel Ritz"の場合と同じで、掲称性がやや強く比較的無冠詞になりやすいと言えます。また、「滝」については、複数形であり、有名であるものが the と使われやすくなるようです。

 上述の一般に無冠詞で使われる固有名詞は、その前に述べた主に定冠詞と使うものと対照して覚えてしまうのが手っ取り早いと思います。具体的には、「海洋−湖」、「山脈−山」、「群島−島」、「半島−岬」、「大きな湾−小さな湾」、「大きな海岸−小さな海岸」、「渓谷−滝」、「大きな川−小さな川」、「大きな森−小さな森」、「砂漠−砂丘」、「大きな海峡−小さな海峡」というような関係から、それぞれ左側が「境界線があいまいで統一感を求めて定冠詞を使いたくなるもの」、右側が「左側のものに比して境界線が明確になり、定冠詞を使いたいという気持が弱まるもの」だと覚えておけば便利です。この両者の語感の違いが、現在どの程度感じられているかは難しい問題ですが、私自身は、ほとんど感じられてい� ��いと思っています。ネイティブスピーカーは、それまで耳で聞いた経験に基づいてそれを模倣しているに過ぎないからです。例えば、改めて「定冠詞を使うのはなぜか」と問われて初めて、他の冠詞の使い方から類推して固有名詞の場合にそれを当てはめて返答する、というようなことがしばしばあり、本来の語感からずれていることが多いと思われます。そこで、私は(言語学者ではないので)、固有名詞と冠詞の関連については実用性を重視しています。つまり、大体の傾向を覚えておいて、必要なときには調べて確認する、ということです。

まとめ

 最後に簡単にまとめておきます。以下の表は、定冠詞の有無の絶対的な区分ではなく、左右の項目の相対的な傾向を示しています。

【表現形式】(相対的な関係)


定冠詞 ←−−−定冠詞の有無−−−→ 無冠詞
the 複数名詞(the) 単数名詞
the A of B(the) B A or (the) A B
複数語から成る名詞単独の名詞
(the) B A(B の A)(the) A B(B という A)
(「第37話」を参照)

【地理上の概念】(相対的な関係。「大小」は物理的客観的な大きさというよりもすむしろイメージとしての「大小」。もちろん、客観的な「大小」も影響する)
定冠詞 ←−−−定冠詞の有無−−−→ 無冠詞
海洋(sea, ocean)湖沼(lake, marsh)
山脈(mountains, range)山(mountain)
群島・列島(islands, archipelago)島(island, isle)
半島(peninsula)岬(cape, point)
大きな川(river)小さな川(creek)
大きな湾(gulf, bight)小さな湾(bay, cove)
大きな海岸(coast)小さな海岸(beach)
大きな森林(forest)小さな森林(wood(s))
砂漠(desert)砂丘(dunes)
渓谷・峡谷(valley, gorge)滝(fall(s))

これらにさらに、「あの、例の、その…」という、特定し、同定しようという意識が働きやすいかどうか(働きやすければ定冠詞)、掲称性が強調される文脈や局面であるかどうか(そうであれば無冠詞)、具体的な実体をイメージしているか単なる抽象的な名称であるかどうか(単なる名称という意識が強いほど無冠詞)、正式で堅苦しく、また悠長か(定冠詞が使われやすい)、簡潔できびきびしており、またくだけているか(無冠詞で使われやすい)、といった点が影響すると考えられます。もちろん、本当は逆で、特定し、同定するために定冠詞を用いるのであり、掲称性を明確にするために無冠詞にするのであり、具体的な実体をイメージさせるために定冠詞を使うのであり、名称をいかにも名称らしく感じさせるために無冠詞� ��を用いるのであり、正式で堅苦しいという調子を出すために定冠詞を付けるのであり、簡潔できびきびしているという印象を与えるために冠詞を落とすのですが。

 本来、今回でこの『冠詞に関する覚え書』は終える予定でしたが、思いのほか長くなってしまいましたので、次回に続けることにします。次回も固有名詞と冠詞の関係を扱う予定です。



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